



さびが浮いたシャッターに、テナント募集の看板がさびしげに貼られてあった。
都内にある1フロアー約80坪、4階建て(計約320坪)の年代モノの倉庫だ。
東京オリンピック(1964年)の時に建設された運送会社A社様の倉庫。トイレもなければ、
エレベーターの扉の開閉は手動式。扉にもさびが浮いていた。テナントが決まらず、
当社に連絡が入った。
それでもオーナーの希望は、改修せずにテナントを付けたいというもの。はっきり
言って、流通型の倉庫での運用は難しいと判断した。
道路を挟んだところにも、A社様の倉庫はあったが、土地の広さは数倍の大きさ。
マンション用地として売却が行われていた。今回の物件は倉庫としては小さく、立地的に
商業用への土地活用も難しい状況でリーシングは、八方塞がりの状況で始まった。
地道な活動もあり、テナントとして、新誠紙工所様が印刷所として活用したいという話が
決まった。印刷所は、倉庫・工場の立地でないと建てることができない。オフィスなどで行うことはできないのだ。
実は、新誠紙工所様の話は二度目。
一度は、一階にあるプラットホームが邪魔で、断念した経緯があった。
他に良い物件がなく、立地面、倉庫の大きさが良い為、再度検討を行っていただいた。
契約が決まったわけではない。前回の問題点をどのように解決していくかが、腕の見せ所となった。
状況をまとめると、オーナー側には設備への改修費を出す考えはない。テナント側は、
改修をしないと利用できないのは明らかだった。しかし、新誠紙工所様は、新印刷所を
立ち上げるために、新たな印刷設備に投資したばかり。改修費用を出すのは難しい状況だ。
(1)資金の調達方法(2)両社がプラスになる改修提案――を考える必要があった。
オーナー様とテナント様の関係が悪化すれば、今後利用していくなかで、火種を残すことに
なってしまう。
まず、明らかにすることは、必要な改修工事をリストアップすること。30項目に及ぶリストが
できあがった。そこから、施設の価値として上がるもの、テナントとして必要な改修工事を
分けていった。
内装・外装やトイレの設置など施設の価値が上がるものについては、オーナー側に工事費を
出して頂き、工事を行うことになった。工事代金は、賃料に上乗せする形にして、長期的に
回収できるように設定。テナント側が必要な設備は、テナント側で払うことにした。
退去時の原状回復を不要にすることで、テナントのメリットを、保証金の一部を償却費に
当てることでオーナーのメリットも引き出した。
「工事をして、その費用の負担の仕方までを細かく提案できたから、今、印刷所が動いている。
単純にテナントを引き合わせるだけのリーシングではできなかった」と案件をまとめた、
当社の営業担当は振り返る。
テナントとオーナーの要望を見極め、線引きができた結果だった。
現地に行くと、過去のさびれた面影はない。通用口にはエントランスができ、来客を迎えて
くれる。エレベーターも最新式だ。横を見ればきれいなトイレの入り口も見える。
倉庫から事務所への転用のため、大規模な工事も必要になった。採光のため窓を開け、事務所
に自然の明かりが入ってくる。通用口から入ったところに、立ちはだかるようにあった壁も取り
壊し、階段に直線で行けるようにした。物の動線を考えた倉庫から人の動線を考えた事務所へと
作り変えていく作業が続いた。
一階は、印刷所と製品の搬出入のスペース。プラットホームを壊し、最新式の印刷設備が動く。
二階は、製本・仕分け作業ができる。倉庫の機能をそのまま生かした。
三階、四階は事務所スペースに。間仕切りをうまく使い、社長室や応接室ができあがった。暖かい
色で彩られた受付もある。そこでは、元倉庫の姿は想像できない。
三階、四階の間仕切りを取り外せば、倉庫として利用することも可能だ。仮に、今のテナントが
抜けても、新しいテナントを見つけやすくなった。
40数年で終わろうとしていた倉庫に息吹がよみがえった。



